個人再生の事例と流れ|主要論点を学ぶ総合ガイド

●論点(1) 「支払不能に陥るおそれがあること」の解釈
●論点(2) 小規模個人再生か給与所得者等再生かの選択
●論点(3) 再生計画案における最低弁済額の算出
●論点(4) 清算価値の算定による最低弁済額の変化
●論点(5) 住宅資金特別条項(住宅ローン特則)の利用要件とその効果
●論点(6) 借金の原因がギャンブルだった場合の扱い
●論点(7) 職業(宅建主任者)に関する論点
●論点(8) 提案された再生計画案の履行可能性はあるのか?
●論点(9) まとめ (個人再生の実現可能性)
![]()
不動産会社に勤務する田中さん(45歳・宅建主任者・既婚・子ども2人)は、好景気に恵まれて安定した収入を得ていた。8年前に念願のマイホームを購入し、現在も住宅ローンを返済中です。返済自体は順調でした。しかし、景気の良さに気が緩み、ギャンブルで借金を抱えてしまいました。
その後、発生した米国の金融危機のあおりで不動産業界が不況に陥り勤務先からの収入が減少。加えて、子どもの教育費や親の介護費用がかさみ、家計は急速に悪化していきました。生活費を補うためにカードローンや消費者金融を利用するようになり、気がつけば借金総額は約650万円に達していました。
このままでは明らかに返済に行き詰ってしまいます。ギャンブルにハマってしまったことを心底反省し二度とやらないと決心。今現在ローン支払い中の住宅を守りつつ、クルマ(カーローン支払い中)も仕事を続けていくうえでできればこれからも使用を続けたい。そのうえで何とか家計を立て直す方策を考えたい。個人再生の手続きを検討することが現実的な選択肢となります。
~田中さんの現状を整理~
• 住宅ローン返済中 ➡ 住宅はぜひ守りたい
• カーローン返済中 ➡ クルマはできれば残したい
• ギャンブルによる借金 ➡ 大いに反省している
• 業界不況で収入減 ➡ でも収入の安定性継続性はある
• 教育・介護費の増加 ➡ カードローン 消費者金融からの借金が増加
• 借金総額650万円➡このままでは返済不能
個人再生の可能性を探った方がいい場合は次の三つの要素が揃っている場合です。
「住宅を手放したくない」・「任意整理では間に合わない」・「返済の意思と能力がある」
【本事案で債務整理の手法として個人再生の可能性をさぐる際の判断材料】
●「任意整理」で利息カットはできても元本の650万円を5年以内で完済できる返済計画は非常に難しい。
● 自己破産すれば借金はゼロになるが、自宅が処分対象となってしまい生活基盤を失いかねない。それだけは何とか避けたい。
● 不動産業界が不景気で減収入とはなっても、以後の生活再建に資する安定的継続的収入は確保されているか、
● 借金の一因にもなったギャンブルや浪費はもう一切やらないと固い決心
■ 事例に含まれる主要論点について
この事例に含められている主要論点(チェックリスト)
-
(1) 「支払不能に陥るおそれがあること」の解釈
(2) 小規模個人再生か給与所得者等再生かの選択
(3) 再生計画案における最低弁済額の算出
(4) 所有する財産の清算価値の算定に関する論点
・自宅(ローン付き)の評価
・クルマ(ローン付き)の評価
(5) 住宅資金特別条項(住宅ローン特則)の論点
・適用要件
・適用効果
(6) 借金の原因がギャンブルによる場合の扱い
(7) 個人再生による国家資格の宅建主任者への影響
(8) 再生計画の履行可能性(家計収支の改善)
(9) まとめ(個人再生の核心)
● 論点(1)「支払不能に陥るおそれがあること」の解釈
個人再生の申立て要件の一つである借金やローンが「支払い不能状態に陥るおそれがあること」とは?
まず「支払い不能状態」とは、借金の返済を期限どおりに継続して行うことが現実的に不可能な状態をいいます。そして、その「不能状態に陥るおそれがある」とは、今現在は返済不能状態とはいえないが、近い将来にそうなる可能性が極めて高い場合、つまり「まだ返済はしているけれど、このままでは破綻が目に見えている」状態です。
(例) 今は、貯金を返済に充てているが、数か月後にはその貯金も底をつきる見込み。
「個人再生」は、返済に行き詰まる前の状態で申し立てることができるため、生活再建のチャンスを早めに掴める仕組みになっています。
田中さんは「このままでは明らかに返済に行き詰ってしまいます」ということだから、裁判所に個人再生の申し立てられるといえるでしょう。
● 論点(2) 小規模個人再生か給与所得者等再生かの選択
「小規模個人再生」は、会社員であろうと年金生活者であろうと自営業であろうと利用できます。一方「給与所得者等再生」は、安定した給与所得者が前提の会社員が対象となります。よって、田中さんは会社員なので、どちらでも都合の良い方を選択できます。
両者とも減額された借金の返済を続けていくために、将来にわたり継続的かつ安定した収入が必要である点で共通ですが、両者の違いに着目すると以下のようになります。
●「小規模個人再生」は、借金の減額幅が「給与所得等再生」に比べてを大きくなる可能性が高い一方、申立人からの再生計画案が債権者の過半数が反対すると不認可になるリスクがあります(書面決議あり)。
●「給与所得等再生」は、書面決議がないので、再生計画が認可される確実性が高いのが特徴です。ただし、借金の減額幅は「小規模個人再生」と比べて限定的で、その分返済額がやや多くなる傾向があります。
| 項目 | 小規模個人再生 | 給与所得者等再生 |
|---|---|---|
| 対象となる人 | 継続的な収入があれば誰でも利用可能 | 安定した給与収入のある人が対象 |
| 減額の大きさ | 大きくなる可能性が高い | 小規模個人再生より限定的 |
| 書面決議 | あり(債権者の反対で不認可のリスク) | なし(認可されやすい) |
| 重視されるポイント | 減額の大きさを優先したい場合 | 認可の確実性を優先したい場合 |
• 減額幅の大きさを最優先するならば ➡ 小規模個人再生
• 減額幅の大きさはもちろんですが、再生計画認可の確実性を優先するならば ➡ 給与所得者等再生
田中さんは会社員で安定収入があるため、どちらも選択可能ですが、自分の収入の安定度と債権者の数・関係性を考慮して、どっちを選択するかで再生計画が認可されやすくなるか、ならないかのカギとなります。
● 論点(3) 再生計画案における最低弁済額の算出
個人再生の「再生計画案」では、いくらを返済すればよいのかという最低弁済額をまず決める必要があります。これは自由に決められる金額ではなく、法律上のルールに基づいて計算されます。
まず、ベースとなる最低弁済額は、民事再生法で定められていて下記の5つに区分けして負っている借金総額に応じて機械的に算出されます。
| 借金総額 | 最低弁済額 |
|---|---|
| 100万円未満 | 全額返済 |
| 100万円以上 500万円未満 | 100万円 |
| 500万円以上 1,500万円未満 | 借金の5分の1 |
| 1,500万円以上 3,000万円未満 | 300万円 |
| 3,000万円以上 5,000万円未満 | 借金の10分の1 |
田中さんが負っている借金の総額は650万円なので(3)に該当して、借金は1/5の130万円に減額されることになります。
ただし、田中さんが所有財産の清算価値が130万円を超える場合は「清算価値保障の原則」が適用され、その超えた額が最低弁済額となることに注意が必要です。 (後述参照)
● 論点(4) 清算価値の算定による最低弁済額の変化
● 住宅(住宅ローン付き)の清算価値
住宅ローンには住宅ローン特則という制度があって、住宅を守られます。
ただ、住宅ローンは当然抵当権付きですから、現状がオーバーローン(時価<ローン残高)の場合もあれば、アンダーローン(時価>ローン残高)の場合もあるわけで、オーバーローンであればその住宅の清算価値はゼロとなるのに対して、アンダーローンであればあるほど住宅の清算価値は大きくなることになります。だから、それが要因で最低弁済額が変わってきます。ベースの130万円を超えていたらその清算価値の金額が最低弁済額となります。※論点(8)を参照
| 項目 | オーバーローン (時価 < ローン残高) |
アンダーローン (時価 > ローン残高) |
|---|---|---|
| 住宅の価値とローン残高 | 住宅の価値よりローン残高が大きい | 住宅の価値がローン残高を上回る |
| 清算価値 | ゼロ | 差額が清算価値として計上される |
| 最低弁済額への影響 | 借金総額の区分で決まる | 清算価値が最低弁済額の基準になる |
| 典型性 | 典型的(多くの家庭が該当) | ローン残高が少ない場合に発生 |
| まとめ | 住宅は清算価値に参入されない | 住宅の清算価値が発生する |
● クルマ(カーローン付き)の清算価値
住宅とクルマでは、個人再生における扱いが大きく異なります。クルマに関しては住宅のような住宅ローン特則はありません。しかも多くのカーローンには所有権留保特約付きであり、所有権は販売会社や信販会社のままです。つまり「カーローンを完済するまではクルマの所有者は債権者である販売会社や信販会社」という意味です。
たとえアンダーローン(時価)>ローン残高)でローン残高が限りなくゼロに近くても債務整理に入るとクルマは引き揚げが行われるのが通常です。結果として、クルマは手元に残らず、清算価値として評価される場面も基本的に生じません。
| 項目 | 住宅(住宅ローン付き) | 車(カーローン付き) |
|---|---|---|
| 特別ルールの有無 | あり(住宅資金特別条項) | なし |
| 所有権 | 本人 | 販売会社・信販会社(所有権留保) |
| 清算価値への影響 | 参入されない(ゼロ評価が多い) | 参入されない(引き揚げが通常) |
| 手元に残せるか | 残せる | 残せないことが多い |
もし、所有権留保特約付きでなかった、あるいはカーローンは完済していた場合は、そのクルマの時価が清算価値に参入されて、その価格が130万円を超えていたら、その時価が最低弁済額となります。
● 論点(5) 住宅資金特別条項(住宅ローン特則)の利用要件とその効果
住宅ローン特則の目的は、自宅を失わずに生活を立て直せるようにすることにあります。
● 利用要件
・本人の所有住宅であるとともに本人の居住目的であること。
・住宅ローンを担保するために抵当権が設定されていること。
・住宅ローン以外の借金を担保するために、住宅に抵当権が設定されていないこと。
● 利用した場合の効果
住宅ローン特則の目的は住宅を守ることです。とはいえ、住宅ローン自体を減額するわけではありません。住宅ローンはそのまま維持されて当初の契約通りローン返済を続けていきます。ただ、住宅ローン以外の借金額だけを個人再生によって減額して、住宅ローン返済の負担を軽減させることにつなげます。
● 論点(6) 借金の原因がギャンブルだった場合の扱い
個人再生では、借金の原因がギャンブルや浪費であっても利用に問題はありません。この点が、免責不許可事由が規定されている自己破産との大きな違いです。
個人再生は、借金をゼロにする制度ではなく、減額した借金を3〜5年で返済する制度です。
そのため裁判所が重視するのは、「申立人に返済能力があるかどうか」ただ一点です。過去にギャンブルをしていたかどうかは、原則として問題になりません。
重要なのは、
• 反省していること
• 再発防止ができていること
• 今後の返済計画が現実的であること
です。
したがって、田中さんの借金の一部にギャンブルが含まれていても、個人再生の成否には影響しません
● 論点(7) 職業(宅建士)に関する論点
個人再生をしても、宅建士の資格には一切影響しません。
宅建士の登録ができない、または取り消される「欠格事由」は法律で限定列挙されていますが、その中に個人再生は含まれていません。
したがって、田中さんは個人再生をしても、これまで通り宅建士として業務を続けることができます。
● 論点(8) 提案された再生計画案の履行可能性はあるのか?
田中さんが負っている借金は650万円です。この場合、論点(3)で述べたベースとなる基準(法的最低弁済額)では、最低弁済額は130万円となり、この金額を返済すれば済むはずです。
ただし、ここで問題となるのは、田中さんが住宅ローン特則を利用して守りたいを考えている住宅ローン付き住宅の評価です。もし、田中さんの住宅の評価額が2000万円で残りの住宅ローン残高が1200万円あった場合、その差額価値800万円が清算価値となります。
この場合「清算価値保障の原則」が働いて、先の最低弁済額130万円と清算価値800万円とを比べて高い金額の方を最低弁済額となり、田中さんは800万円を債権者に支払わなければならないことになります。
それとともに、住宅ローン特則を適用した結果、望み通り住宅は守られますが、それは住宅ローンはそのまま維持されて、これから毎月々の返済を続けるからこそ住宅が守られるのです。
そうなると、結局、田中さんの負担はいくらになるのでしょうか?
800万円 ÷ 60回 = 約13.3万円/月
② これに加えて、そのまま継続された住宅ローンの支払いは、これまで通り支払っていかなければなりません。
③ さらに、日常の生活費(飲食費・水道光熱費・教育費・介護費・クルマの代替手段の費用など)が当然に必要となります。
田中さんは、上記①②③の経済的負担を抱えて生活を立て直していけるのか?裁判所はこれだけの支払いをできる安定的・継続的な収入が見込まれる再生計画を提示しなければ、再生計画を認可されないことになります。
● 論点(9) まとめ (個人再生の実現可能性)
「個人再生」のコンセプトは、財産も生活も守りながら、借金だけを大きく減らして現実的に返済できる金額にする制度といわれていることは間違えありません。
ただ、どうしても無視できないのが「清算価値保障の原則」です。清算価値の高い財産所有している場合、田中さんでいえば清算価値800万円の住宅を所有している場合は、個人再生をするのは実質的に困難になってきます。つまり、その800万円に加えて、そのほかの支払いもできるような安定的収入がなければ、個人再生は通らないことになります。
住宅ローン特則という住宅を守れる制度がありながら、その一方で住宅の価値が高すぎると実質的に個人再生が使えなくなってしまうという矛盾を生じてしまうことがあるのです。
先に「住宅を手放したくない」「任意整理では間に合わない」「返済の意思と能力がある」──この3つの条件が揃っている場合は、個人再生が最も適しているといいましたが、3つ目の「返済の意思と能力がある」が時として大きなハードルとなるのです。