任意整理の事例と流れ|主要論点を学ぶ総合ガイド

■事例に含まれる主要論点について
●論点(1) 借入状況の把握と整理 (借金の全容確認)
●論点(2) 取引履歴開示の請求と引き直し計算を通じて過払い金返還請求権の可能性
●論点(3) 任意整理を誰に頼むか(司法書士or弁護士)?
●論点(4) 任意整理では整理する借金としない借金の判断
●論点(5) 家族に任意整理を知られないようにする対応は?
●論点(6) 受任通知によって直接の連絡や取り立て行為の停止の効果
●論点(7) 任意整理の交渉内容(将来利息 遅延損害金カット・返済期間の調整)
●論点(8) 月々の返済額シミュレーション
●論点(9) 任意整理のデメリットの説明
●論点(10) 任意整理後順調に返済を続けることで得られるメリット
● 日本法規情報 (債務整理相談サポート)
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Aさんは神奈川県在住の会社員。妻と小学生の子ども二人と暮らしている。
転職によって月収が 28万円 → 22万円 に減少したことをきっかけに、生活費補填のために複数の借入を重ねてしまった。
- 消費者金融w:50万円
- 消費者金融x:70万円(不明な部分あり)
- クレジットカードY(キャッシング+ショッピング):90万円
- 携帯端末の残債:7万円
- 銀行ローンZ:20万円
- 友人Cからの借入:25万円
- 家族に内緒で利用していた後払いアプリ:3万円
総額:265万円。督促の電話が毎日のように鳴り、Aさんは「家族に知られたらどうしよう」と不安で眠れない日々が続いた。
■ 事例に含まれる主要論点について
この事例に含められている主要論点(チェックリスト)
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(1) 借入状況の把握と整理 (借金の全容確認)
(2) 取引履歴開示と引き直し計算➡過払い金返還請求権
(3) 任意整理を誰に頼むか?(司法書士or弁護士)
(4) 任意整理の対象にするかしないかの判断
(5) 家族に知られたくない場合の対応
(6) 受任通知による取り立て停止の効果
(7) 任意整理交渉(将来利息・返済期間)
(8) 返済シミュレーション
(9) 任意整理のデメリット説明
(10)和解後の返済管理
● 論点(1) 借入状況の把握と整理 (借金の全容確認)
自らの借金問題を専門家に解決してもらうわけだから、当然に総借金額を把握しておかなければなりません。
本来なら貸金業者から借り入れがある場合、それに関する情報(取引履歴情報など)はしっかり記録保存しておく必要があります。
ところが、Aさんは、借り入れ債務があると申告したが、しっかり記録していなかったため正確には覚えていない借金もあるようです。
専門家Bは、Aさんに「貸金業者に取引履歴を取り寄せて正確な債務額などなどを確認する必要がある」と説明しました。
※取引履歴とは、貸金業者との契約に基づく借入や返済の詳細を記録したもので、開示請求することで過去から現在までの利用履歴を確認できます。
● 論点(2) 取引履歴開示の請求と引き直し計算を通じて過払い金返還請求権の可能性
専門家Bは各債権者へ取引履歴の開示請求を行うことができます。貸金業者側はこの請求を拒否できません。
取引履歴開示請求は利息の過払いの有無を確認するための欠かすことのできない権利です。
その開示された情報の結果、Y消費者金融Yからの正確な借入金額も明らかになり、それらをもとに引き直し計算すると、消費者金融Wの一部取引については、過去に利息制限法の上限を超過していた期間があって、しかも、その超過分(過払い分)をすべて元本に充当してもなお過払い金10万円があることが判明しました。その場合は過払い金返還請求権が発生しました。
● 論点(3) 任意整理を誰に頼むか(司法書士or弁護士)?
依頼した専門家が弁護士である場合は、何ら制限なくあらゆる法律問題に裁判上、裁判外を問わず代理人として携わることができます。したがって、Aさんは本件を弁護士に依頼するのは全く問題ありません。
司法書士の場合は、それが認定司法書士である場合に限って、借金額140万円を限度に簡易裁判所での任意整理の訴訟代理人として行為することができます。
但し、この140万円という数字は、複数の貸金業者(業者でない一般人も含む)からの合計借金額が140万円を超過していても各社・各人ごとの債権額が140万円を超えていなければ、認定司法書士は相手方の貸金業者(一般人も含む)と任意整理の交渉はできるし、必要であれば簡易裁判所での訴訟代理人として訴訟行為をすることが出来ます。
したがって、本件は、全借金額は260万円で140万円を超えていても、誰一人単独で140万円を超えていないので、Aさんは本件を認定司法書士に依頼することもできます。Aさんは弁護士よりも比較的費用が安価な(認定)司法書士に依頼することにしました。
● 論点(4) 任意整理では整理する借金としない借金の判断
任意整理は、他の二つの債務整理(個人再生・自己破産)とは違って、複数ある借金のうち任意整理の対象にする借金と、対象とせずにこれからも当初の約束通りの返済を続けるという借金のいずれかを選択ができるところに特徴があります。
Aさんとしては、借金返済に窮しているわけだから、全ての借金を一定額減額してもらいたいのはやまやまですが、Aさんには以下のような事情がありました。
まず、友人Cからの借り入れは、これからも友情関係にはヒビを入れたくないので、Cからの借金の返済は任意整理の対象にはせずにこれからもそのまま続けていきたい。
次に、銀行系のクルマローンの返済を滞るとクルマを引き揚げられ、仕事に大きな支障を生じるので、残りのクルマローンは任意整理の対象から外して何とか頑張って返済を続けたいと思っています。
ということで、Aさんはこの二つの借金を除いた他の借金を任意整理の対象と決めて交渉する方針をとったのです。
● 論点(5) 家族に任意整理を知られないようにする対応は?
Aさんは債務整理を家族に知られないことを強く希望しています。
そこで司法書士Bは、下記の処置をしました。
- 郵送物はBの事務所留めにした。
- BからAさんへの連絡はAさんの自宅の電話ではなくすべて携帯電話にした。
- 受任通知を発した直後は貸金業者からの連絡が入る可能性があるが、それらはすべてBが受けることにした。
- 個人用口座を使用することにして家族と共有しないようにした。
● 論点(6) 受任通知によって直接の連絡や取り立て行為の停止の効果
司法書士BがAさんから任意整理の依頼を受任した旨の通知を各貸金業者に送付すると、各貸金業者からの催促や取り立て行為は一切停止します。新たな利息の発生も停止します。
これによって、Aさんは借金返済を催促する連絡や取り立て行為はなくなり精神的にも落ち着き、ゆっくり寝られることになります。
● 論点(7) 任意整理の交渉内容(将来利息 遅延損害金カット・返済期間の調整)
司法書士Bによる各貸金業者との和解交渉が継続的に行われた結果、和解契約が成立し下記の内容になりました。
債権者 元本 将来利息 遅延損害金 返済期間
消費者金融W社 元本0円(引き直し計算後 過払い利息ありその分全てを元本に充当) 過払い金返還請求権10万円発生。
消費者金融X社 元本70万円 利息カット 5年
Y社 元本90万円 一部利息カットに応じない 5年
携帯端末機の残代金 7万円 利息カット 3年
後払いアプリ 3万円 利息カット 2年
※Y社だけは利息全部カットには応じなかった。
● 論点(8) 月々の返済額シミュレーション
任意整理によってAさんの返済総額は170万円となり、それを5年間の分割返済で計算すると、月々の返済合計金額は34000円となります。
任意整理は成功しても返済義務は残ってきます。したがって、Aさんには継続的な収入源が必要になります。Aさんには、これを賄うまでの収入があるので、任意整理を成立させて返済を継続させられます。
● 論点(9) 任意整理のデメリットの説明
司法書士Bは債務整理を業として受任できる専門家として、Aさんにその方法として任意整理を奨めましたが、任意整理にはメリットがある反面、当然のデメリットもあるので、その点もしっかり説明してAさんはそれを納得したうえで正式に委任しました。
- 事故情報(ブラックリスト)で5年間は新規借入不可
- クレジットカードは解約になるし、5年間は新たにクレジットカードを作れない
- 滞納すると和解契約が破綻し、一括請求される
- 負っている借金が保証人付きであった場合、任意整理すると保証人は一括返済を迫られる
● 論点(10) 任意整理後順調に返済を続けることで得られるメリット
- 督促や取り立てが止まる。
- 利息や遅延損害金がカットされる。
- 借金返済のゴールが見えてくる。
- 生活再建の余裕が生まれる。
- 財産が守れる。
- 信用情報の回復につながる。
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