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自己破産者の破産財団から優先して返済される債権とは?~財団債権・優先的破産債権・別除権~

      2022/12/22

< 目 次 >
破産債権とは?
破産債権とは対極的位置にある財団債権と優先的破産債権と別除権
財団債権・破産債権・優先的破産債権とは?その相互関係は?
財団債権と優先的破産債権にはどのようなものがあるか?
① 財団債権にはどんなものがあるのか?
② 優先的破産債権にはどんなものがあるのか?

別除権について
① 別除権とは?
② 別除権にはどんなものがあるのか?
③ 別除権の効果

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■ 「破産債権」とは?

 
自己破産では、破産手続開始決定時に破産者が所有していた財産の管理処分権限が破産管財人に移って破産財団を構成し、そこから債権者に弁済・配当されるのです。

破産財団から破産手続に則って返済される債権の中身は100万円を貸したときの貸金債権とか、商品を100万円で売却したときの売掛代金債権とか、日常よくある通常の財産上の請求権が典型例です(一般債権)。

本来は、それら貸金債権とか売掛代金債権は裁判外の実社会で権利行使できる実体法上の債権ですが、これらの債権は債務者が自己破産すると破産手続開始によって「破産債権」に変化します。その破産債権はは破産手続上でないと権利行使はできなくなります(破産法100条1項)。

● 破産法100条1項
「破産債権は、この法律に特別の定めがある場合を除き、破産手続によらなければ、行使することができない」

ところで、破産債権といえるためには、その債権が破産手続開始決定の原因によって生じた財産上の請求権である必要があります。

それに対して、破産手続開始決定の原因によって発生した債権は破産債権ではありません。破産手続上で行使することはなく実体法上の権利として実社会のなかで権利行使、債権回収ができるのです。

貸金債権や売掛代金債権が破産債権に変化した債権を「一般の破産債権」といいます。この債権の回収には破産手続に沿った裁判上での回収が必要で、したがって「債権者平等の原則」が適用されることになります。

だから、もし、複数の破産債権者がいる場合は、破産財団に対し債権者相互には優先権はなくすべて同順位で各債権者がもつ債権額に応じて公平平等に比例配当されます。特定の一人の債権者が抜け駆け的に優先して弁済を受けることは禁止されます。

銀行のカードローンからの借り入れ、サラ金などからの借り入れなどなど、いわゆる貸金業者からの借金は、ほとんどこの「一般の破産債権」にあたります。

だから、貸し手側の銀行、サラ金などの債権者からみれば破産手続を通じて破産者の財産が換価処分(現金化)されてどのくらい破産財団に属し債権回収できるのかが大きな関心事となります。

~「一般の破産債権」の成立要件~

(1)
破産者に対する請求権であること。
(2)
原則として破産手続開始決定前の原因に基づいて生じた請求権であること。
(3)
財産上の請求権であること。
(4)
強制できる請求権であること。

 

 

■ 「破産債権」とは対極的位置にある「財団債権」「優先的破産債権」「別除権」について

 
ところで、破産財団をターゲットとする債権の中には、前述した「一般の破産債権」とは対極的位置にある債権があります。

つまり、対極的地位にあるということは、今回の記事のタイトルにあるように、破産財団に帰属した財産から【他の債権者に先んじて優先的に返済を受けられる債権】があるということです。

この優先的債権は、まず、同じ「一般の破産債権」と同じ破産債権でありながらも「優先的破産債権」があります。

次に、それとは別に「財団債権」があります。

さらに一つ付け加えて「別除権」があります。(※「別除権」に関しては後述します)

※そもそも自己破産には「債権者平等の原則」の適用がありますが、この三つの債権については、その優先性につき債権者平等の原則は当てはまりません。

この三つの債権の大まかな関係性については、下記の図で表します。

この図をベースにしつつ、それぞれの債権について説明していきます。
 

■「財団債権」「破産債権」「優先的破産債権」とは?その相互関係は?

 
破産手続が開始されたら、財団債権、破産債権はともに、破産手続が進む中で返済されていくということで共通ですが、両者の違いは下記にあります。

「財団債権」とは、破産手続きの途中であっても配当手続を待たずに、いつでも破産管財人(管財事件の場合)に請求すれば破産財団の財産から優先して弁済を受けられる債権です。

それに対して、

「破産債権」とは、繰り返しますが、破産手続を通じて破産財団の財産を破産管財人が換価処分(現金化)して、そこから各債権者の債権額に応じた額を公平平等に配当手続を通じて配当される債権です。

「優先的破産債権」とは、破産手続きを通じて破産財団の財産を破産管財人が換価処分(現金化)して配当手続を通じて優先的に弁済を受けることができる債権をいいます。あくまで破産債権ですので、財団債権のように手続中に支払いを受けることはできませんが、配当手続の中で優先的に配当を受け取れるのです。一般の先取特権その他の一般優先権を有する債権がこれにあたります。

ということで、破産手続での「財団債権」以外の全ての債権を「破産債権」といってもいいです。

● 破産法2条第7項
「財団債権」とは、破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権。
● 破産法2条第5項
「破産債権」とは、破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、財団債権に該当しないもの。

※上記条文の「破産手続によらないで・・・」の意味は、配当手続によらず、破産者の破産開始決定時の財産から優先していつでも弁済を受けられるということを意味します。

したがって「財団債権」は「破産債権」に対して優先して返済を受けられる債権といえます。

そして、この「破産債権」は前述したように「一般の破産債権」「優先的破産債権」の二つ分かれます。

両者とも配当手続を経て返済される「破産債権」であることに共通性を持ちますが、前者は、各債権者がもつ債権額の割合に応じて平等公平に比例配当されます。

それに対して、後者は、その「一般の破産債権」に優先して配当を受けることができる債権です。

つまり「優先的破産債権」は、同じ破産債権でありながら「一般の破産債権」に優先して返済を受けられる債権といえます。

● 破産法98条第1項
破産財団に属する財産につき一般の先取特権その他一般の優先権がある破産債権(=優先的破産債権)は、他の破産債権に優先する。

以上をもとに、3つの債権の相互関係をまとめると、破産手続が進んでいる中で返済の順位は下記のようになります。

①財団債権(最優先) ⇒ ②優先的破産債権(次優先) ⇒ ③一般の破産債権

したがって、破産管財人は破産者の財産・資産を調査し、現金化して、まず最優先で「財団債権」に返済します。そしてその残りを「破産債権」に返済するわけですが、その「破産債権」にも順位があって、「優先的破産債権」⇒「一般の破産債権」の順で返済していくことになるわけです。

〇財団債権⇒破産手続の中で、配当手続きを経ないでいつでも自由に請求でき優先的に弁済される債権
〇優先的破産債権⇒破産手続の中で、必ず配当手続を経て弁済されるが、一般破産債権に優先して弁済される債権
〇一般の破産債権⇒破産手続の中で、必ず配当手続を経て、各債権者が持っている債権額に応じて平等公平に比例配当される債権(債権者平等の原則の適用あり)。


 

■「財団債権」と「優先的破産債権」にはどのようなものがあるか?

 

①「財団債権」にはどんなものがあるのか?

「財団債権」で主要なモノは、下記の1)2)の2つの視点から分類できます。
1)破産手続を進めていくうえで必要となった裁判上の費用
・裁判所への予納金、破産管財人の報酬債権、破産管財人が行った行為で発生した債権など。もし、今ある破産財団で財団債権全てを支払しきれない場合は、この裁判費用などを差し引いた分が、残る財団債権へ金額に応じて平等に分配されます。
2)社会的、政策的な見地から最優先で返済されるべき費用
・国税、地方税等の租税債権(公租公課・健康保険料・社会保険料も含む)で破産手続開始決定時に納期がまだ到来していないモノ、または納期が到来してから直近1年以内の滞納分。
・継続的給付を目的とする水道光熱費・携帯 スマホの通信料・インターネット通信料などの公共料金で破産手続申立て日を含む直近1か月の滞納分(下記の関連記事参照)。
・雇人がいる場合で破産手続開始決定日を含む直近3か月間の給与債権。
3)財団債権間の優先順位は?
・こういった「財団債権」は、自己破産手続の中で最も優先して返済される債権ですが、その「財団債権」の間にも優先順位があって、まず1)の債権に優先的に返済されて、その残りが2)の債権に割り当てられる形になります。

②「優先的破産債権」にはどんなものがあるのか?

「優先的破産債権」は次の2つに分類できます。

1)一般の先取特権
下記の原因によって発生する債権をもつ者は、自己破産者の破産財団に「一般の先取り特権」をもちます。

「先取特権」とは、法律で定められた特別の債権を持っている人が、法律の規定に従って、債務者の財産から他の債権者より優先して返済をうけられる権利。

a.共益の費用
・各債権者の共同利益のためになした破産財団の保存、清算、配当に使われた費用のことです。
b.雇用関係(雇人の給与)
・財団債権で掲げた雇人の給与債権を除いた給与債権、つまり、破産手続開始決定時の直近3か月間の給与債権を除いた給与債権、例えば、直近3か月より以前の給与債権が、この「優先的破産債権」の部類に入ります。

※雇人の給与の中での優先度についての整理
①「財団債権」として扱われる雇人の給与
「破産手続開始決定時には給与支給日が到来していてそれが直近の3か月間の給与債権」
②「優先的破産債権」として扱われる雇人の給与
「破産手続開始決定時には給与支給日が到来していてそれがすでに直近の3か月を経過している給与債権」

c.葬式の費用
・葬式の費用に破産財団の中からの優先的回収権を与えることによって、貧困者からの葬式依頼を断ることなく安心して貧困者の葬式を催すことができます。「貧困者でもお葬式をあげてもらえるように」という社会政策的考慮に基づいています。
d.日用品の供給
・葬式費用の優先的回収権と同じ趣旨です。日用品(生活に必要な破産手続開始決定前の直近の6ヶ月の飲食良品)を買うことができなければ、生活をすることができなくなりますので、貧困者に日用品の購入をしやすくするように政策的に規定されたものです。
・継続的給付を目的とする水道光熱費で破産手続申し立て前6か月分の滞納分(下記の関連記事参照)。

2)一般の優先債権
財団債権で掲げた租税債権を除いた租税債権(公租公課)、つまり、破産手続開始決定時に納期が到来していない租税債権、および破産手続開始決定時に納期が到来して直近1年以内の租税債権を除いた租税債権、例えば直近の1年を超えてしまった租税債権などが、この「優先的破産債権」の部類に入ります。

※租税債権の中での優先度についての整理
①「財団債権」として扱われる租税債権
「破産手続開始決定時に納期が到来していない租税債権」「破産手続開始決定時には納期は到来しているけどまだ直近1年内の租税債権」
②「優先的破産債権」として扱われる租税債権
「破産手続開始決定時には納期は到来していてすでに直近の1年を経過している租税債権」

3)優先的破産債権間の優先順位は?
「優先的破産債権」は「一般の破産債権」に優先しますが、その「優先的破産債権」の間にも優先順位があって下記によります。

1.公租(国税・地方税)の債権⇒2.公課(国民年金や国民健康の保険料)の債権⇒3.共益費用⇒4.雇用関係⇒5.葬式費用⇒6.日用品の供給
※「非免責債権」という概念について
「非免責債権」という債権があります。これは自己破産との絡みで出てくる概念で、通常のお金の貸し借りといった破産債権とは対比関係にあって、自己破産で「免責許可」がおりても免責効果が認められず支払をしなければならないという債権債務の総称をいいます。そういった意味で「租税債権」も「非免責債権」の一つといわれています。当該租税債権が「財団債権」と扱われようと「優先的破産債権」として扱われようと、いずれにせよ「非免責債権」であることには違いがないわけです。
関連記事→自己破産で免責になっても慰謝料請求(損害賠償)はされてしまう?~非免責債権とは~


 

■「別除権」について

 

①「別除権」とは?

もし、自己破産者がもっている財産に対する破産債権が冒頭に述べた通常の貸金債権とか売掛代金債権といった「一般の破産債権」で債権者平等の原則の適用がある債権であっても、その債権に担保権が付いている場合は、破産手続とは関係なく債権者独自の判断で実行でき債権を優先的に回収できます。この担保権付債権を「別除権」といいます。

つまり、破産手続開始時に破産財団に属する特定の財産に設定された担保権に基づき、破産手続によらずにその担保権を実行することで、その特定の財産から優先的・個別的に返済を受けることができる債権のことをいいます。この別除権を有する人を「別除権者」といいます。

自己破産の場合、今まで述べた「財団債権」や「破産債権」では、破産手続きを進める裁判所を通じて破産管財人との関わりがある中で債権の回収をなす点で共通ですが(両者の違いは配当手続きを通すか否かで前者は通さなくてもいい後者は通す点で違う)、「別除権」の場合は、当該債権(一般の破産債権)が担保権を持つことによって破産手続の外で破産手続とは全く関係なく破産管財人も関係なく債権回収のため債権者の判断で権利行使ができるのです。

● 破産法2条第9項
「別除権」とは、破産手続開始の時において破産財団に属する財産につき特別の先取特権、質権又は抵当権を有する者がこれらの権利の目的である財産について第65条第1項の規定により行使することができる権利をいう。
● 破産法65条第1項
別除権は、破産手続によらないで、行使することができる。

②「別除権」にはどんなものがあるの?

先にあげた破産法2条第9項では、担保権として「特別の先取特権」「質権」「抵当権」を持っている債権を「別除権」として定義づけています。

その中でも最も典型的な例が、住宅ローンでその住宅に設定される「抵当権」です。

住宅ローンの債権者は通常は銀行です。銀行は住宅ローンの債権者であるとともに、その住宅に「抵当権」という担保権をもつことで、銀行は「別除権者」として、住宅ローンの返済が困難になった債務者が自己破産を申し立てたとしても、その破産手続に関係なく、住宅に設定した抵当権を実行して競売にかけて、その売却処分された金額から優先的に債権の回収ができるのです。

なお、条文に記載がある担保権以外でも「譲渡担保権」「所有権留保」「仮登記担保」といった担保権が付いた債権も別除権として取り扱われます。

③「別除権」の効果

繰り返し述べますが、別除権として認められる担保権付債権は、担保権を実行することで破産手続外で優先的返済を受けることができます。

別除権者は、破産手続き中でも外でも、担保権を実行して他の一般の破産債権者に優先して債権回収を図ることができます。よって、破産手続が開始された後でも、担保物件に対する競売を申し立てることもできます。

自己破産の場合「一般の破産債権」は、債権者が複数いるときは、平等公平の比例配当による債権の回収となるので、通常は債権の満額回収を果たすことができません(債権者平等の原則)。

でも、同じ「一般の破産債権」であっても担保権を有することで別除権をもつことになると、担保権を実行することによってその担保物件がもつ価値によっては、債権の満額回収することができます(債権者平等の原則の例外)。

「一般の破産債権」であっても、別除権をもつことで優先的に返済を受けて債権の満額回収が可能だということは、債権者がもっている債権を、無担保の「一般の破産債権」のままほっておくことなく、債権回収をより確実にするために「一般の破産債権」に担保権を設定するという手間を費やしているわけだから、その分債権満額回収を実現できる機会を得て当然といえます。

もし、仮に担保権を実行したにもかかわらず、その財産の担保価値が債権の満額に届かなかった場合、例えば、被担保債権となる「一般の破産債権」額が2000万円なのに、担保権実行の結果1500万円しか回収できなかった場合は、残りの500万円の債権については優先的に返済を受けることはできません。

500万円については無担保の「一般の破産債権」として、破産手続に参加して、冒頭に述べた自己破産の原則形に立ち戻って破産財団から他の複数の一般の破産債権者と同順位で比例配当を受けることになります(「債権者平等の原則」が適用されます)。

だから、残り500万円については他の各債権者と平等の立場で各々が持っている債権額に応じた案分比例で配分されるので、500万円満額回収される可能性はことになります。

 

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